ベットサイジング(投資金額の資金割当)を決めるための数式に、ケリー基準と呼ばれるものがあります。
投資・ギャンブルにおいて、用意した資金のうちどれだけの金額を割り当てるかを決めるため、昔からケリー基準という考えが用いられています。
ある投資・ギャンブルに対して継続的に資金を注入するときに、このケリー基準によって決まる割合でベットすると、他の投資戦略と比較して長期的に一番多くの利益を生み出すことがわかっているため、多くのケースで利用されています。
例えば私たちがベットする金額を決めるとき、このケリー基準の考えを活用して、レースごとの予測リターンに対して適切な金額(長期的な視点で「正解」となるベット金額)を決定することに役立てるかもしれません。
ケリー基準 記事のサマリ
- ケリー基準はポートフォリオの投資配分を決めるために投資の世界で幅広く利用されています。
- リターンとリスクが予測できているときに、シンプルな数式で最適な予算配分を教えてくれるのがケリー基準というものです。
- 自分のベットする予算を決めていれば、予想されるリターン(オッズ)に応じて、いくらベットするかをケリー基準を使って決めることができます。
最適な投資配分を教えてくれる数式 ケリー基準の概要
ケリー基準は、投資・ギャンブルでどれだけの資金を割り当てるかを決定するために頻繁に使用されている、投資金額の資金割合を決めるための数学的な公式です。
この数式を活用すると、複利でリターンを期待できる複数の投資案件(ポートフォリオ)に対して、どのように資金を配分すれば収益を最大化できるかという、最適なベットサイジングを算出することができます。
予算(投資に使える総額)が決まっていて、投資案件のリターン(オッズ)とリスク(確率)がわかっている場合に、一番最適な投入資金の割合を教えてくれる、ということです。
ケリー基準をギャンブルで活かそうとするときには、ここが一番の難関ですね。競馬やボートレースなど、リターン(オッズ)がわかっていてもそれがどのくらいの確率で成功するか(的中するか)は、ベットするときには常に主観的な尺度でしか測れません。
特に公営競技において、オッズはパリミッチェル方式で決まるため、仮にオッズの支持率が成功確率(的中する確率)と等しい場合には、必ず期待する回収割合が1より小さくなります。競馬の単勝や複勝なら0.8(80%)、ボートレースなら0.75(75%)というのが、オッズと的中確率が一致しているときに期待できる回収割合ですね。
ケリー基準では、期待収益率がプラス(期待回収率が100%超)となる投資案件を前提としています。リターンが見込めない投資は考慮しない、ということです。
しかし、だからといって使えない考えだと切り捨てるのは早計です。普段の公営競技(競馬やボートレースなど)にベットする際の活用例を最後に例示しているので、参考になれば幸いです。
多くの投資家が活用する資金配分公式 ケリー基準の歴史
ケリー基準というのは、名前のとおり、アメリカの科学者であるジョン・L・ケリー(John Larry Kelly Jr.)によって開発されました。
これは最初から投資やギャンブルのために開発されたものではなく、ニュージャージー州にあるAT&Tのベル研究所で研究員として働いていたケリーが、長距離電話のノイズに関する問題を解決するために発表された論文に掲載された数式でした。
ケリー自身は個人的な目的でこの数式を投資やギャンブルのために使ったことはなかったようです。
もともとは別の目的で開発されたこの数式(ケリー基準)は、その後数学・金融分野の研究者であるエドワード・ソープ(Edward O. Thorp)によってブラックジャックのゲーム理論を開発するために用いられ、そこから投資やギャンブルの理論として広く知られるようになりました。
投資の世界では、一般的な資金管理の考え方に取り入れられており、著名な投資家であるウォーレン・バフェット(Warren Buffett)やビル・グロス(Bill H. Gross)が自身の投資理論にケリー基準を基にした分析手法を組み込んでいるということでも有名です。
シンプルな数式が表す成功のために最適な基準
成功確率に応じて最も収益が多くなる資金配分を教えてくれるケリー基準ですが、その式は以下のようなシンプルな数式です。
この数式で使われているアルファベットは、
F:ケリー率が導く投資配分(%)
b:成功したときに見込まれるリターン倍率
p:成功確率
q:失敗確率(= 1 – p)
を意味します。
ギャンブルでいうと、bがオッズに相当し、pが当選確率に相当します。
pがわかればその逆の確率であるq(1-p)も決まるので、b(リターン)とp(リスク)の2つがわかったとき、用意している資金のうちそれに投資する割合をF%にすることが一番収益をあげられる可能性の高い資金配分ですよ、というのがこの数式が表していることです。
bがオッズに相当するという部分は少し注意が必要です。
これは、ある投資金額に対して、
(成功したときの)期待収益 ÷ 投資金額
を示しています。
日本の公営競技のオッズは、ベットした金額がいくらになって返ってくるかを示す倍率で表示されています(4.5倍→100円賭けると450円返ってくる)。
この返ってくる金額はベットした金額も含んでいるので、
返ってくる金額(倍率)= 投資金額 + 期待収益
ということになります(4.5倍→100円賭けると期待収益は350円)。
結局は単純に倍率から1を引いてあげればいいだけ(4.5倍→b=3.5)、ということになるのですが、少しわかりにくいです。見慣れているオッズ表記を、リターン金額の倍率に変換してあげる必要があります。
ちなみに、イギリスなどヨーロッパのブックメーカーなどで用いられているオッズ表記(フラクショナル・分数表記)だと、そのまま使えます。分数で表されたオッズの分子(左側)が、分母(右側)の金額をベットしたときのリターン(ベット金額を含まない)を示しており、分数の値はケリー基準のbそのものです。
同じ数式を以下のように変形して、エッジ(p*(b + 1))という指標を用いることもあります(q = 1 – p)。
ケリー基準 = (エッジ – 1) / リターン倍率
という表記になります。
エッジが意味しているのは、1円ベットしたときに何円返ってくるかという、回収できる金額の期待値です。
エッジを使って考える方がオッズのデシマル表記に慣れている日本人にとってはわかりやすいです。オッズとその的中確率を乗じた値がエッジで、それが1を超えるということは割のいい(儲かる)ギャンブルだということです。
資金配分割合を教えてくれるケリー基準の計算例
いくつかのシチュエーションを仮定して、ケリー基準が推奨する資金配分を確認してみましょう。
コイン投げ
コインを投げて表が出たら掛け金が2倍、裏が出たら掛け金が没収されるゲームを想定します。
この場合、
b = 1
p = 0.5
q = 0.5
となり、推奨される配分は0となります。つまり賭けないほうがいいですよ、ということを言っています。
これは、ケリー基準が期待収益率0%を超える案件(期待できるリターンがある、ということ)を前提にしているということです。
このケースでは、100円賭けてコインを投げたときの期待値は100円です(100×2 + 100×0)。つまり、期待リターンは0円ということになります。
ケリー基準では、期待リターンがない案件に対しては0以下(期待収益率が0%未満だとマイナスの数値となります)の計算結果が示されます。
サイコロ投げ①
次に、サイコロを投げて出た目に応じて賞金がもらえるゲームを想定します。
例えば、サイコロの目が1から4のときに掛け金が2倍になり、5か6だと掛け金が没収されるとしましょう(とても魅力的なゲームです!)。
この場合、
b = 1
p = 0.666 ( ⅔ )
q = 0.333 ( ⅓ )
であり、ケリー基準ではF%=33.3%( ⅓ )の配分が推奨されます。
サイコロ投げ②
倍率が2倍以外の場合にどうなるかを確認しましょう。
サイコロの目が1の場合のみ、掛け金が6.5倍になり、それ以外だと掛け金が没収されるとします(①に比べるとしぶちんです)。
この場合、
b = 5.5
p = 0.166 ( ⅙ )
q = 0.833 ( ⅚ )
であり、計算してみると約1.5%というのがケリー基準が推す割合となります(⅙ – (⅚ / 5.5))。
①に比べるとはるかに小さくなりました。
この1.5%という数字が意味することは、これより多い割合で同じ賭けを何度も行う(オーバーベット)と破産する(用意した資金がショートする)可能性が高いことを示唆しています。
もちろん、1.5%以下に抑えたからといって、必ず破産を回避できるわけではありませんが、数式のうえではそれ未満の割合で勝負をし続けること(アンダーベット)は、利益見込みを最大化できないということが示されています。
今回のサイコロ投げ②のケースでは、破産のリスクを抑えたうえで資金の増加率を最大にするためには、用意した資金の約1.5%で勝負し続けることだとケリー基準は知らせてくれています。
単勝勝負
ある日の競馬で2つレースを選び、両方のレースで単勝1点のみベットするとします。
仮に両方のレースの期待収益率が5%(またはエッジが1.05)だとしましょう。実際の確率は神のみぞ知る、ですが、あなたと私は平均5%プラスになるはずだ、と確信しているとします。
あなたのベットスタイルは本命派で、1番人気馬に絞って単勝を買います。1つ目のレースは1番人気の単勝が3.0倍、2つ目は4.5倍だったとします。
この場合、
レース1:
b = 2.0
p = 0.350
q = 0.650
レース2:
b = 3.5
p = 0.233 ( 7/30 )
q = 0.766 ( 23/30 )
であり、レース1は2.5%、レース2は約1.43%(1/70)というのがケリー基準の計算結果として出てきます。
あなたの競馬予算というのが決まっていれば、予算を上記の割合で各レースにベットし、これからも同じ戦略(ベット金額の決め方)を続けることが利益を最大化することに繋がります。
また、今日の予算が決まっていて、この2レースだけしかやらないのだとしたら、レース1とレース2を7:4の資金割合でベットするのがいい、という解釈もできます(2.5%対1.43%の比)。
このように、ケリー基準は複数ある選択肢(ポートフォリオ)に対して、どの程度分散して投資・ベットをするべきかという情報を提供してくれます。
ケリー基準の数学的バックグラウンド
ケリー基準が示す数式は非常にシンプルですが、数学的な証明も比較的シンプルです。
所持している金額の単位を1として、そのうちf%を成功率pの案件にベットしたときに得られる金額の見込みというのが、
として表すことができます(1+fbは成功したときの総額、1-fは失敗したときの総額)。
このrは1回の投資が終わったあとの所持金額の見込みであり、所持金額を1としているので所持金額の成長率と捉えることができます。
この成長率の対数を取って、fの値によって成長率rがどう変化するかを見てみると、ケリー基準で示されるF(%)のときに成長率が最大化されることが確認できます。
普段のスポーツベッティングにケリー基準をどう活用するか
ケリー基準で導かれる計算結果が最適な資金配分の割合を教えてくれること。そして簡単なケースでその計算例を紹介してきました。
ただしそれは、仮に投資・ギャンブルのリスクとリターンを正しく予測できていた場合、という前提が付きます。
私たちがスポーツベッティングを楽しむにあたって、ケリー基準における一番の教訓は、結局のところ期待収益率が見込める(エッジが1を超える)ものに投資しなさい、という話になってしまいそうな気もします。
しかし、それでは話しが終わってしまうので、ここでは仮に我々は期待収益率5%(エッジが1.05)のベット戦略を持っているということにして、ケリー基準を使ってベット金額を決めるという活用方法を考えてみましょう。
ベットターゲットのオッズ帯を最適化する
例えば、今日一日、ある開催場で行われる12Rすべてにベットしよう、と考えているとします。
計画的な私たちは、今日使っていい金額をあらかじめ決めていて、様々な事情からその予算以上の金額を使うことはないとします(予定金額からマイナスとなることをパートナーが絶対に許してくれない、など)。
各レースで均等な金額をベットする場合、ケリー基準でいう計算結果にあたる資金の配分割合が先に決まります(1/12)。ここではこれまでの計算を逆転して利用し、レースごとに1/12ずつベットするならどのくらいのオッズのものにベットするのが最適なのかを見てみようと試みています。
次の表では、レースごとの掛け金を一定にしたときのベットするレース数に応じたオッズを紹介しています。
レース数 | 投資配分 | 期待収益率 | リターン倍率 | ターゲットオッズ |
---|---|---|---|---|
3R | 33.3% | 5% | 0.15倍 | 1.15 |
6R | 16.6% | 5% | 0.3倍 | 1.3 |
12R | 8.33% | 5% | 0.6倍 | 1.6 |
24R | 4.16% | 5% | 1.2倍 | 2.2 |
36R | 2.77% | 5% | 1.8倍 | 2.8 |
12Rのケースである1.6倍なんて、競馬だと複勝か圧倒的1番人気の単勝くらいしかない、と思われたかもしれません。
1点勝負しかしないのであればそれは正しいのですが、例えばオッズに応じて3連複や3連単を複数点購入する場合を考えてみてください。購入する組み合わせのなかで、低い(人気のある)オッズには多くの金額をベットし、逆(人気のない)には金額を少なくすると、どれが的中しても期待リターンをある程度揃えることができます。
そのような買い方で1.6倍というのは、総額3,000円でリターンが同程度になるようにベットしたときに、どれかが的中すれば5,000円程度のリターンが見込まれる買い方(ポートフォリオ)、というイメージに一致します。
- マークシートで1点ずつ書いて投票する場合には大変ですが、ネットで購入するような場合はベットする総額(予算)だけ入力すれば自動的にそのときのオッズにあわせて期待リターンが一定に近付くように各組み合わせの賭け金を決めてくれます。そうしたとき、一番低いリターンとなるものを見ると、思ったより低いリターン倍率となっていませんか?
- 購入する組み合わせのなかに、複数の点数が的中する可能性がある場合は分けて考える必要があります。
- 期待収益を5%と置いているので、購入する組み合わせを増やせば増やすほど(手を広げるほど)その仮定と乖離することになります。例えば、全ての3連複の組み合わせをリターンが一定となるように購入できたとすれば、その期待収益は-25%(中央競馬の3連複の払戻し率は75%)となります。結局は、いかに的中確率に比べて高い(人気のない)オッズを見つけられるか、という話しに帰着します。
ベットターゲットのオッズ帯に応じて資金割合を最適化する
前の例にあるように、オッズに応じてリターンが近い値になるように複数点数をベットすれば、的中したときの回収金額が平均化されます。
例えば、あなたは毎回だいたいベットする総額に対して2倍の金額が回収できるようにベットしているとします。
そして今ある貯金のうち競馬に使っていい金額というのが決まっているとします。1日の予算、ではなくて、例えば今年1年間に使っていいギャンブル予算といったようなイメージです。
そうすると、ケリー基準を用いれば、倍率が平均して2倍のベットに対しては、予算の5%で勝負すべき(そしてそれを続けるべき)、ということがわかります。
ここでは最初の仮定に置いたように期待収益率が5%(エッジが1.05)とした場合のターゲットとするオッズに対するケリー基準の計算結果を掲載しておきます。
ターゲットオッズ | 期待収益率 | 投資配分 | 回転数 |
---|---|---|---|
1.5 | 5% | 10% | 10回 |
2.0 | 5% | 5% | 20回 |
3.0 | 5% | 2.5% | 40回 |
4.0 | 5% | 1.66% | 60回 |
5.0 | 5% | 1.25% | 80回 |
成功確率を見積もる精度向上が鍵 強力な「ツール」を使いこなすために
この記事では、投資の世界で資金配分の戦略に用いられることが多いケリー基準を紹介しました。
そして、普段のスポーツベッティングでのケリー基準の活用についても、例をあげて案内してきました。
リスクとリターンがわかっている場合に、この基準は強力な武器となることを数学が証明しています。
ある案件にケリー基準が示す割合を超えて投資を行うことは、明確に収益面でのマイナスとリスク(資金が減り続ける可能性)の増大を招きます。
逆に、リスク回避の観点から、ケリー基準より少ない割合を採用して投資金額を決めることはよくあります。前提としたリターン(期待収益・エッジ)を過大評価している可能性を考慮する場合や、資金の変動(ボラティリティ)の幅を抑えるためには有効な戦略で、フラクショナルケリーと呼ばれています。
例えば、ケリー基準の半分の割合で投資することをハーフケリー、ケリー基準どおりの割合の場合をフルケリーと呼ぶことがあります。
このベット金額を決めるために有効なツールは、シンプルな数式に基づいているため、前提が正しければ成功を収めるための最適なツール選択となります。
ただし、そこは「前提」つまり投資・ギャンブルの成功確率(的中確率)をいかに現実に近い数値で見積もることができるかにかかっています。
以上、ケリー基準の紹介でした。
あなたがスポーツベッティングをより楽しむために、BKCの情報が役立ちますように!